「秘密保護法」の危険なねらい

弁護士 森  孝博

 政府・与党は、2013年10月25日、「特定秘密の保護に関する法律案」(以下、「秘密保護法案」)を国会に提出し、大多数の国民が反対・慎重審議を求めているのにもかかわらず、同年12月6日深夜の参議院本会議での強行採決で可決・成立させました。法案提出からわずか40日で、この法律の危険性は何も是正されないまま、国会内の「数の力」だけで成立されたのです。

 この法律の危険性は、まず第1に情報統制の危険です。「特定秘密」と呼称したり、対象となる情報を「4分野」とするなどといっていますが、大臣の判断ひとつで行政の持つ広範な情報を半永久的に「秘密」として隠蔽できる仕組みになっています。たとえ国会や裁判所からの要求であっても、大臣の判断ひとつで情報提供を拒否することもできます。すでに40万件以上の情報が「秘密」指定される予定ともいわれており、自衛隊、TPP、原発等、どこまで「秘密」が増殖するのか見当もつきません。政府は法案審議の途中から秘密指定等の妥当性をチェックする第三者機関を設置するなどと言い出しましたが、いずれも独立性がなく「お飾り」としかいえないようなものばかりです。

 第2に、「秘密保護」の名目で、重罰(最高懲役10年と罰金1000万円)による処罰ないしその脅しをもって、私たちを情報から徹底的に隔離し、その自由を奪おうとする点です。公務員のみならず、行政に関連して仕事をする民間の事業者・労働者等にも重い秘密保持義務を課し、過失(不注意)でも漏えいすれば処罰、さらには内部告発であっても処罰するとして、徹底した口封じが行われます。それだけではありません。「管理を害する行為」等も処罰するとして、一般市民やマスコミが情報にアクセスする行為も処罰するとしています。さらには、「教唆・共謀・扇動」を独立して処罰するとしています。情報公開を呼びかけた(扇動)、取材を相談・計画した(共謀)、こんなことだけでも処罰されるおそれがあるのです。

 第3に、「適性評価」の危険性です。これは、情報の管理・秘匿のため、情報を取り扱わせる者には先ほどの重い秘密保持義務だけではなく、取り扱わせる前の段階から、思想・信条、精神疾患に関する通院歴、飲酒歴、信用情報などを調査し、さらには家族・同居人なども調査し選別するものです。これだけでも重大なプライバシー侵害ですが、「適性なし」とされれば仕事等を失う結果になりかねないにもかかわらず、「結果は通知する」「苦情は誠実に処理」として、理由や判断基準すら明らかにされません。プライバシーを侵害された上、思想・信条等で恣意的に差別され仕事を奪われても、救済を求めることが極めて困難です。

 こうした危険性とともに、これが憲法改悪の先取りであることも看過できません。日本国憲法を放棄し「戦争するための国づくり」を狙う自民党改憲草案や国家安全保障基本法案(概要)の中にも秘密体制はしっかりと明記されています。戦争国家体制と表裏一体の関係にあるのが秘密保護法なのです。しかも、今回の法案は、国民、国会、裁判所等に対しては情報を徹底して秘匿する一方、「外国政府や国際機関」には極めて緩い条件で「特定秘密」を提供できるようになっています。「集団的自衛権」の名の下にまさにアメリカの「下請」となって海外での軍事行動に突き進みたいという「本音」が表れています。

 安倍政権は、「重要法案」というのにもかかわらず、2013年9月3日まで法案の概要すら「秘密」にし、法案の実態が広く知られないうちに、臨時国会で一気に成立させてしまおうと考えてきました。しかし、その目論見を打ち破り、国会審議中、日を追うごとに国民からの反対・批判の声が急激に広がりました。こうした声が法案を推進する政府・与党を孤立させ、最後は会期末(12月6日)ギリギリの政府・与党による強行採決というところまで追い込みました。法律の施行(12月13日の公布から1年以内)まではまだまだ時間があります。この間、秘密保護法が基本的人権の尊重、国民主権、平和主義という憲法の大原則に反する悪法であるとともに、それに反対する国民の声を無視する政府・与党の反国民主権・反民主主義ともいえる姿勢が鮮明となり、反対の声が大きく広がりました。この声をさらに広げ、危険な秘密保護法を凍結、そして廃止させましょう。

これまでに類を見ない生活保護制度の改悪

弁護士 牧戸 美佳

1:
 2004年から2006年にかけて段階的に生活保護の老齢加算が減額・廃止され、今年で減額開始から10年になります。同じく減額・廃止された母子加算については2009年12月に復活しましたが、老齢加算については現在も全国で裁判が続いています。

 そして今、これまでに類を見ない生活保護制度の改悪が行われようとしています。

2:
 昨年5月15日、生活保護の生活扶助費を3年間で総額670 億円減らす予算が成立しました。そして、その翌日には、この予算に基づいて厚生労働大臣が生活保護基準を引き下げる内容の告示をしました。その削減幅は平均6.5%、最大10%にも及び、これまでに類を見ない規模の生活扶助基準の引き下げになっています。この生活扶助基準の引き下げで、生活保護利用世帯のほとんどの世帯が影響を受けることになりますが、特に、子育て世帯などの多人数世帯の削減幅が大きくなっています。

 また、昨年5月17日には、申請手続の厳格化、扶養義務者に対する調査権限の強化等を盛り込んだ生活保護法の改正案が閣議決定されました。この法案は昨年6月26日に一度廃案になりましたが、昨年秋の臨時国会で再提出され、昨年12月6日、成立しました。

3:
 これらの生活扶助基準の引き下げと改正生活保護法は、様々な問題を含んでいます。

 まず、基準引き下げは、受給者の生活実態を十分調査して慎重に判断すべきであるのに、それが一切行われませんでした。また、政府の審議機関である社会保障審議会の基準部会の検討すら無視して行われています。基準部会の報告書では、基準の引き下げを明言しておらず、むしろ安易な引き下げに慎重な立場を示していますし、総額670億円の削減のうち、基準部会で全く検証されなかった「物価動向を勘案した削減」が580億円とされています。改正生活保護法は、北九州の餓死事件などで問題となった「水際作戦」を合法化するものに他ならず、極めて問題のある内容です。

4:
 生活保護制度の改悪は、他の社会保障制度の改悪につながる問題であり、決して受給者だけの問題ではありません。生活保護基準は他の社会保障制度に連動しています。生活保護基準の引き下げは、国民の最低生活水準の引き下げにほかなりません。生活保護は、憲法25条の生存権保障を具体化した「最後のセーフティネット」です。今日、餓死や経済的理由による自殺、貧困に起因する犯罪が社会問題となっていますが、これらに対する施策をとることなく単に生活保護基準だけを切り下げれば、これらの問題はさらに深刻化する恐れがあります。現在、生活保護利用者は215~216万人と言われていますが、それは、非正規雇用の問題、失業保険制度の充実、年金制度の改革等の施策によって解決すべき問題であり、生活保護制度を改悪し、生活保護基準を切り下げて解決すべき問題ではありません。

10.5 第5回 憲法のつどいの報告

事務局 芝崎  智

 憲法のつどい「戦争ができる国ってどんな国?~過去の戦争体験から憲法9条を考えてみよう~」が世田谷区烏山区民会館で開かれました。当日はあいにくのお天気でしたが、60名近い方々にご参加頂きました。ありがとうございました。

 まずは西川光雄さん、清岡美知子さんに小林容子弁護士、森孝博弁護士がインタビューをする形で過去の戦争体験を伺いました。

 17歳の頃海軍の軍属に志願したという西川光雄さん。軍属とは軍人ではないが軍隊と一緒に行動して後方支援を行う人たちのことだそうです。配属将校という軍人が学校に派遣され、幼い頃から男は戦争に関わるのが当然と心も体も教育されていたこと。嵐の中小笠原諸島の母島に向かい、そこで「硫黄島の玉砕」と言われる無線の連絡が入った後は次は自分たちだと死を覚悟したことなどお話し頂きました。

 次に清岡美知子さん。日本にいて攻撃を受ける側はどんな状況だったのかお話を伺いました。当時、浅草に住まいがあり、東京大空襲を体験されました。東京大空襲当日はとても寒く3月の墨田川の水は切るように冷たかったが空襲中は隅田川に入り、上半身は鉄兜で常に水をかけて自身が燃えるのを防いでいたということ。川から見上げた言問橋では、左右から逃げてきた人が往生し、さらにはその人々が燃えていて、橋が炎のアーチのように見えたこと。川の水で身体が冷え切り凍え死んでしまうのではと、橋の下の燃えている炎で暖を取ったが、その炎は逃げ遅れた人々の遺体であったこと。など経験した方にしか分からない悲惨さを伝えて下さいました。

 休憩をはさみ、高橋右京弁護士から「集団的自衛権」と平和憲法について。集団的自権は、冷戦期の軍事大国の勢力拡大・維持のための軍事力行使の正当化にすぎず、その名のもとに濫用される可能性が高い概念であること。「集団的自衛権の行使を容認する」とは、未だに平和維持活動の武器使用・活動内容についての議論があるにもかかわらずいきなり国連による活動外での武力行使を認めるという議論であること。

 改めて今の憲法を読んでみると、太平洋戦争への真摯な反省、その上で世界平和を求めることを宣言しているとても尊い、画期的な憲法であること。日本はむしろ世界をリードして平和国家として世界平和に貢献していく道を考えるべきではないかという内容でした。

 会場発言の中では、戦争体験者である淵脇みどり弁護士のお母様が「戦争だけはならん!」と故郷の鹿児島弁で力強く仰っていました。

 次回の憲法のつどいも皆様のご参加をお待ちしています。

〈ご参加頂いた方からの感想文をご紹介致します〉

 私立の学校で国語教員をしています。私自身は戦後生まれで全く戦争を知りませんが、教材には戦争を扱ったものが多く同世代の中では戦争を題材にした小説や歴史関係の本も読んできたつもりです。が、生の体験を伺う機会はそれほどなく、今日は貴重なお話を伺えました。特に清岡さんの東京大空襲の話には息をのみました。生徒達は、戦後生まれの私が驚くほど第2次世界大戦のことを知りません。反戦の詩をひとつ教えるのも、徴兵制、赤紙、空襲のことなどのことばから教えることになります。一人の市民としてまたこどもたちに伝える役割を負っているものとしてできることを考え続けていきたいです。今日はありがとうございました。
 

【Q & A】裁量労働制だと残業代はもらえない?

Answer/ 弁護士 原 希世巳

コンピューターのデータ処理をする会社に勤めて、データ処理の仕事をしています。毎月の残業が70時間くらいになるのですが、上司からは「君は裁量労働制だから残業代はつかない」と言われました。入社した時の契約書には確かにそのようなことが書いてあります。あきらめなくてはならないのですか。

 裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある労働者については、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。従って例えばみなし労働時間を(所定労働時間と同じ)週40時間と労使が合意しているような場合、週50時間働いても40時間働いたものとみなされ、残業代は発生しません(但し深夜割増や休日割増は発生します)。逆に週35時間しか働かなくても40時間働いたものとみなされますが、そんなケースはあまり聞いたことありません。

 一般的な仕事の進め方のイメージとしては、会社は社員に仕事の内容を説明し期限を指定します。社員は自分で納期までのスケジュールを決め、自由に時間を使って労働します。会社は途中経過を報告させ、仕事が順調に進んでいるかどうかを確認することはできますが、時間配分など仕事の進め方について指示することはできません。

 ところが、裁量労働といっても名ばかりで、会社から業務について細かく指示されて仕事をしている場合や、通常では考えられないような仕事量を与えられて、毎日社員は仕事づけになっているような場合もよくあります。このような場合、裁量労働制の合意は無効だとして残業代の請求はできることになります。

 またこのように不払い残業を横行させる危険があるので、裁量労働制が認められる業務については厚生労働省令により、19の業務に規制されています。あなたの場合、それらの内の「情報処理システムの分析又は設計の業務」に該当する可能性がありますが、その具体的な内容は、①顧客ニーズや業務の分析等による最適なシステムや機種の決定、②入出力・処理手順などの最適なアプリケーションシステムや最適なソフトウェアの決定、③システム稼働後の評価・改善、など相当に高度な知識、技量を用いて裁量的な判断が必要なものに限られます。

 あなたの業務がこのような内容の業務であるのかどうかが問題です。単に会社からの指示に従ってデータの処理をしているだけであるとすると、これには該当しません。その場合も残業代は請求できることになります。