事務所ニュース:No.87 2021年4月15日発行
福島原発避難者・山木屋訴訟判決のご報告
弁護士 髙橋 右京
本年2月9日、福島第一原発の事故により故郷からの避難を強制された被害者が、東京電力に対し損害賠償を請求した訴訟(福島原発避難者訴訟)のうち、川俣町山木屋地区からの避難者が原告となった訴訟(第2陣山木屋訴訟)について、福島地方裁判所いわき支部にて、判決が言い渡されました。
山木屋地区、とは、福島県伊達郡川俣町の中にあり、「帰還困難区域」として今も避難指示が続く浪江町津島地区(「ダッシュ村」があった地域です)に隣接する、典型的な中山間地域です。
原告らは、①この原発事故を引き起こしたことに対する東京電力の悪質性を主張するとともに、主に②避難慰謝料(過酷な避難生活を強いられてきたことに対する慰謝料)として一人月50万円、③ふるさと剥奪慰謝料(生活の基盤である故郷を奪われたことに対する慰謝料)として一人2000万円の損害賠償を求めてきました。
ところが2月9日の判決では、①東京電力の悪質性は否定され、安全対策の懈怠の程度は著しいものではないとされてしまいました。原発の安全対策を怠った東電を厳しく避難した、第1陣訴訟の仙台高裁判決から、大きく後退した内容と言わざるを得ません。
また、②避難慰謝料については、既に東京電力が直接被害者に支払っている月額10万円で十分(原告によっては貰いすぎと認定)として支払いを認めず、③故郷剥奪慰謝料として200万円のみを認容しました。
当然、原発事故の被害によって、生活そのものを奪われた原告の救済につながるような判決とは、到底言えません。既にあの事故から10年の歳月が経過し、裁判中になくなってしまった原告もたくさんいらっしゃいます。1日でも早く、原告、そして原発事故の被害に遭われた方が十分に救済されるよう、引き続き高等裁判所で頑張っていきたいと思います。
建設アスベスト訴訟・最高裁決定のご報告
弁護士 森 孝博
▶この間度々ご報告させていただいた首都圏建設アスベスト東京1陣訴訟ですが、2020年12月14日、最高裁が国の上告受理申立を不受理とする旨決定しました。これにより、約13年にわたる建設アスベスト訴訟において、初めて国の責任(規制権限不行使の違法)が確定し、かつ、その責任は労働者のみならず一人親方や中小事業主に対しても及ぶことが確定しました。また、最高裁は、原告らのメーカー12社に対する上告受理申立を受理する旨も決定し、これにより、メーカーの共同不法行為責任を否定した高裁判決が見直される機運が大きく高まりました。
▶この最高裁決定を受けて、2020年12月23日、田村憲久厚労大臣が、東京訴訟の原告らと面会して謝罪するとともに、解決に向けた協議の場を設けるよう事務方に指示をしました。また、2021年2月18日に自民党・公明党の「与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム」が結成され、3月12日には建設アスベスト被害者救済のための野党合同ヒアリングが実施されました。建設アスベスト訴訟の全面解決、補償基金制度創設の実現に向けた大きな流れが生まれています。
▶2021年2月25日に東京1陣訴訟の最高裁弁論が開かれ、判決言渡しは「追って指定」となりましたが、今年前半のうちには最高裁判決が言い渡されると予想されます。
▶国とメーカーの責任を認める最高裁判決を勝ち取り、一日も早い建設アスベスト訴訟の全面解決と補償基金制度創設を実現したいと思いますので、皆さまには、これまで以上のご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。
コラム:歴史的事件の裏側を描いた韓国映画
事務局 形岡 七恵
初めてコラムを書かせていただくことになりました。映画好きな私ですが、特に韓国の映画やドラマが大好きなので、一番最近に観た作品をご紹介したいと思います。
1月に公開された「KCIA 南山の部長たち」。1979年に起きた、パク・チョンヒ大統領暗殺事件の裏側を、フィクションで描いた実録サスペンス。朴大統領以外の登場人物は架空ですが、実在した人物がモデルです。主人公の中央情報局(KCIA)部長キム・ギュピョンを演じるのは、イ・ビョンホン。モデルとなったのは、暗殺を実行した、当時のKCIA部長です。
大統領暗殺40日前から映画は始まります。18年続くパク独裁政権に対し、民主化を求める声が国内外で強まる中、元KCIA部長のパク・ヨンガクが、現政権の腐敗の実態を告発すべくアメリカ下院議会で証言。これはKCIAの失態であると激怒する大統領。キム部長はあらゆる手を尽くしますが、大統領は、もう一人の側近、クァク警護室長にばかり耳を傾けるようになります。長年忠誠を尽くしてきた大統領からの信頼を失い、背を向けられたキム部長。ついに大統領暗殺を決断します。
かつての友人でもあり、夢や理想を共にした大統領やパク・ヨンガクを自ら暗殺したキム部長。血に染まった手で乱れた髪を整える暗殺後の姿は、どこか哀しげで、その後さらに続いた軍事政権を示唆しているようにも思えました。
直近の部下による現役大統領暗殺という、世界を驚かせた歴史的な事件を、細やかな心理描写により、人間的で普遍的なドラマに掘り下げた迫力ある一本です。