事務所ニュース:No.93 2024年4月20日発行

画期的な判決 原発避難者・山木屋訴訟判決のご報告

弁護士 髙橋 右京

1 東電の責任
 まず、同判決は、原発事故に対する東京電力の責任については、東電は、事故前に地震による津波の危険性について一定程度予見していたにもかかわらず、「具体的な対策を何ら講じることはなかった」として、東電を厳しく非難しました。

2 損害について
 この裁判で原告らは、原発事故により住民は「ふるさと」を奪われたとして「故郷喪失慰謝料」を請求してきましたが、一審判決では、2017年の避難指示解除により被害は一定程度回復したとして、わずかな慰謝料しか認めませんでした。
 しかし、今回の高裁判決では、避難指示解除後も復興が進まない山木屋の現状が正しく評価され、2022年12月に発表された「中間指針・第5次追補」で認められた「生活基盤変容慰謝料」一人250万円を超える、一人330万円の「故郷喪失慰謝料」を認めました。これに、「線量不安慰謝料」を加え、原則として1人360万円の慰謝料が認められました。中間指針の基準をこれほど大きく上回る判決は、おそらく初めてのことだと思われます。

3 最後に
 皆様のご支援のおかげで、このような画期的な判決を勝ち取ることができました。誠にありがとうございました。
 原告団・弁護団は、今後も、この判決をテコに、東電や国に対し、真の故郷復興に向けた要求・協議を続けていきます。引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

「結婚の自由をすべての人に」訴訟

弁護士 向井 香織

1 「 結婚の自由をすべての人に」訴訟とは
 2019年2月14日、性別を問わず結婚ができるよう「結婚の自由をすべての人に」訴訟が始まりました。同訴訟は、法律上の性別が同じカップルが結婚できないことを憲法違反だと正面から問う、日本で初めての訴訟です。
 私も、弁護士登録後すぐ、東京弁護団に参加させていただきました。

2 どうして法律婚
 「どうして結婚制度にこだわるの?」という声をよく聞きます。同性カップルは、結婚制度を利用できないことにより、「配偶者」を対象とする様々な法制度の適用を受けられません。例えば、健康保険や厚生年金保険の保険料負担について軽減措置を受けられませんし、カップルのうち一方は、養育する子どもとの間で法的な親子関係を築くこともできません。遺言がなければ相続人にもなれず、外国人パートナーの場合には「配偶者」としての在留資格を受けられません。
 また、民間事業者のサービスや医療現場においても、サービス提供事業者が「同性パートナーも「配偶者」として扱う」という方針を独自に採用しない限りは、サービスが適用されません。
 そして何より、マジョリティの価値観に合わせて自分自身を偽って生きることは、どんなに辛く、抑圧されたものでしょうか。同訴訟は、ただ結婚を認めて欲しいというものにとどまらず、「個人の尊厳」を取り戻すための裁判だと思います。

3 これまでとこれから
 同訴訟は、本年3月14日の判決を含め、全国6つの地裁判決のうち、5つで違憲・違憲状態の判断を獲得してきました。同日の札幌高裁では、憲法24 条・14 条1項についての違憲判断を獲得しました。着実に司法や世の中が変わっています。
 日本の憲法訴訟において違憲判断が続くことは、それ自体とても画期的なことですが、最終的な目標はあくまで法律婚の実現です。いますぐにでも法律婚が認められるよう、立法府には早急な対応をと切に願います。

離婚後共同親権について

弁護士 千葉 恵子

1
 2024年2月15日、「離婚後共同親権制度」の導入を含む「家族法制の見直しに関する要綱案」が法制審議会において採択され、3月8日には、これを内容とする民法改正案が閣議決定されました。今国会において同制度についての民法改正案が提出される可能性が高まっています。

2
 親権とは、教育、医療、居所指定等の子に関する重要事項を決定する権限のことで、婚姻中は両親が共同して決定する訳ですが、離婚後は父母のどちらか一方が親権者となり単独で決定することになります。
 これに対し「離婚後共同親権」では、離婚後も子に関する重要事項について父母のいずれか単独ではできず、父母が共同しなければ決定できなくなります。従って、例えば次のようなことについても元夫婦の一方が反対すると、出来なくなります。

① 離婚後、子どもと暮らす母親(監護者)が旧姓に復した場合に、子の姓を変えるためには父親の承諾が必要。
②子と暮らす親が再婚して、子が再婚相手と養子縁組をためにはもう一方の親の同意が必要。
③保育園入所、進学先決定、引っ越し、手術などの必要がある場合にも元の配偶者の同意が必要。

3
 皆さん、どう思いますか。改正案では、親権行使にあたり、「その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない」(改正案民法817条の12)としていますが、そもそも離婚するほど関係が悪化している元夫婦(父母)が、これら子どものことについて冷静な話し合いをすることは困難です。一番被害を被るのは子どもです。
 「改正案」では、離婚に際して合意で従来の単独親権だけではなく共同親権を選択することが出来るようになります。しかしDVや虐待により夫婦関係が破綻したようなケースではまともな合意が出来るか疑問です。「共同親権にするなら離婚してやる」と言われれば、嫌でも認めざるを得ないケースもあるでしょう。親権をどうするかで協議がかなわず、裁判所に離婚の条件を決めてもらうしかないようなケース(離婚訴訟)も増えるでしょう。

4
 また「改正案」では上記の①~③のような場合、相手方の同意が得られないときは裁判所に申立をして決めてもらうことが出来るとされます。しかし裁判所が判断を下すのに数ヶ月はかかるでしょう。専門的な知識を有する調査官の不足も深刻です。今の家庭裁判所で対応していくのは困難だと思います。
 離婚後共同親権を認めた場合、子どもの利益、という観点からは弊害が多いと思います。今の制度でも親権者が子どもにとって不適切な行為をしているような場合、親権者の交代を裁判所に請求することが出来ます。離婚後も父母が共同して子どもの成長のため責任を持つべきだ等と理念的なことをいう人もいますが、共同親権がどのように子どもにとっていいのか、ということは具体的になっておらず、実際には共同親権は子どものためにならないことばかりのように思われます。

コラム:手品と私

弁護士 前畑  龍

 私は昔から手品が大好きで、テレビでやれば必ず録画していました。練習をしていた時期もあり、最近再びやり始めようかなと思っています。

◆ある有名な手品の紹介
 手品師が「カードを1枚選んでください。」といってトランプの束を向け、観客はそこから1枚選びます。観客はカードにサインをして手品師に返します。手品師は受け取ったカードを観客に見せながら、「このカードを束の中に入れて指を鳴らすと、カードが上にあがってくるんです。」といって裏返して束の中に入れ指を鳴らし、1番上のカードをめくると本当に入れたはずのカードが上がってきています。
 少し想像できたでしょうか? この手品はアンビシャスカードといわれる非常に有名な手品であり、カードマジックの最高傑作ともいわれています。あまりにもインパクトが強いため、この手品を見てしまうと他のものは霞んでしまうんだとか。

◆重要なのは「話術」
 手品では「技術」の他に実は「話術」も非常に重要なんです。楽しんでもらうための演出をする力が求められます。
 弁護士も法律の知識が重要なことはもちろんですが、話を聞く力・話す力も非常に重要だと思います。手品の話術も習得しつつ、しっかり法律家としての話術も身につけていきたいところです。

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