事務所ニュース:No.79 2017年3月1日発行
福島原発避難者訴訟 ~山木屋現地検証のご報告
弁護士 髙橋 右京
1 私や米倉勉弁護士、吉田悌一郎弁護士が所属する福島原発被害弁護団が担当する、「福島原発避難者訴訟」(福島地方裁判所いわき支部)で、昨年、非常に大きな進展がありました。
福島原発避難者訴訟とは、2011年3月11日に発生した福島第一原発での事故により、ふるさとからの強制避難をさせられ、今も避難生活を余儀なくされている住民の皆さんが原告となり、東京電力に損害賠償を求めている裁判です。
すでに第1次提訴から4年以上経過してしまいましたが、昨年ようやく、裁判官が自ら原告たちの避難元である現地に赴き、その状況を確認する「現地検証」が実現しました。しかも、昨年のうちに3度も実施させることができました。本稿ではこのうち、私が主に準備に携わった、川俣町山木屋地区での現地検証(2016年11月10日)について、ご報告いたします。
2 山木屋地区とは、福島県伊達郡川俣町の一部で、標高400~500mの山間部に位置する地域です。豊かな自然に恵まれ、高地でありながら稲作や葉タバコ栽培など、農業が非常に盛んな地域でした。このような地理的条件から、伝統的に住民同士の結びつきが非常に強く、地元の伝統行事なども住民総出で行われていました。この裁判で原告たちは、「ふるさとを奪われたことに対する慰謝料(ふるさと喪失慰謝料)」を請求していますが、そこでいう「ふるさと」というものが、非常にわかりやすい形で残っていた集落であったといえます。
ところが、事故により福島第一原発から拡散した放射性物質は、当時の風向きの関係で北西の方向に多く流れ、山木屋にも大量の放射性物質が降り注ぎ、4月に入って計画的避難区域に指定され、住民らは「遅すぎる」避難を強いられたのです。
3 現地検証では、最初に、山木屋住民が多く避難している仮設住宅を検証しました。原告にもなっている老夫婦が暮らす仮設住宅は、間取り2Kの大変狭い空間でした。この日の午後には、このご夫婦が暮らしていた山木屋の立派なご自宅にも伺いましたが、山木屋でも有数の古くからの農家で、ご自宅も大変広く立派な建物でした。その落差を、裁判官にも実感してもらえたものと思います。
各集落の真ん中に設けられた、除染廃棄物の仮置き場の様子も、いくつか検証しました。除染作業車の交通の便から、仮置き場の多くは、各集落の中心地に近い、もっとも立地のよい田地に設けられています。たとえ避難指示が解除されたとしても、目の前に大量に放射性物質を含む廃棄物が山積みされた場所で、安心して暮らすことができるでしょうか。
また、原告が30年もの時間をかけて開拓してきた、今は荒れ果てた姿の牧場や、山木屋の主要産業の一つである葉タバコの畑やその乾燥のための施設などを、原告本人に説明してもらいながら、検証しました。原告本人が、その現地で説明することにより、農業は膨大な知識・経験と努力の積み重ねであること、それが原発事故で無に帰してしまったことの無念さが、よりよく伝わったと思います。
その他にも、子どもの教育を通じて地域社会全体の交流の場となっていた、小学校や「たんぼリンク」(冬の間、田地に氷をはって作ったスケートリンク)なども検証しました。
各検証ポイントでは、事故前の山木屋地区の写真なども示しながら原告本人に説明をしてもらうなど、原発事故によりふるさとがどのように変わってしまったのかということを、肌で実感してもらえるよう、工夫を重ねました。裁判官にも、この原発事故がもたらした被害の本当の姿、事故により失われたものの大きさを、現地で肌で感じてもらえたものと確信しています。
4 避難者訴訟は、今年中には第1陣原告の本人尋問や専門家の尋問が終わり、結審し、来年の早い時期に判決が下されることが予想されます。全国各地で行われている他の原発事故被害者の裁判の多くもこの1~2年で結審・判決が予定されており、原発被害者の救済は、いよいよ第一の山場を迎えます。
皆様にも、是非ご注目をいただき、原発被害者たちの闘いをご支援いただけると幸いです。
国にぜん息等医療費救済制度を求める署名運動にご協力を
弁護士 原 希世巳
東京都のぜん息医療費無料はあと1年間
皆様の中にも、ご自身あるいは家族・知人がぜん息という方が大勢いらっしゃると思います。これまでも何度かこの事務所ニュースで、都内のぜん息患者の医療費が無料になる制度ができたことはお知らせしてきました。この制度は、当事務所では私や小林容子、萩尾健太弁護士らが取り組んできた東京大気汚染公害裁判の勝利和解によって被告の国や自動車メーカーにも財源を拠出させて東京都に作らせたものです。
この制度が始まって10年。来年2018年の4月から月6000円を超える医療費のみ補償する形に制度が切り下げられます。公害患者会などの皆さんはこのような制度改悪に必死に反対し、期限を3年間延ばさせたのですが、「財源不足」を理由に押し切られ、悔しい思いをしました。
国の責任で救済制度・署名にご協力を
この東京都の制度は大気汚染による公害被害を救済するものです。しかし公害対策は本来国の責任で行われるべきものです。そこで東京の患者会は、「それならばその2018年4月までに今度は国に制度を作らせようではないか」と、昨年から全国の患者会と共同して、国に対して医療費助成制度を作らせる運動を始めました。
医療費無料化で症状改善?
ぜん息等は慢性化すると一生の付き合いになります。しかし近年「ゾレア」や「ヌーカラ」といった治療薬が開発されて、何十年も苦しめられてきた症状が消えたという方が東京では増えています。但し、これらの新薬を使うと毎月十数万円、3割負担で5~6万円もかかります。東京都内は医療費無料だからこそ使えるのです。
新薬を使わなくても、無料になったので毎月きちんと診療を受け、薬も節約しないで使うようになったことで、症状が改善したという患者さんも大勢います。
どうしてぜん息などの病気だけ?
ぜん息などの場合、大気汚染という社会的な要因が発病や重症化に深く関係していることが一般的な難病とは違うところです。大気汚染をまき散らした責任者は、裁判の被告となった国・自治体・自動車メーカーなどが中心ですが、石油業界や長年ディーゼル車を大量に使用してきた運輸業界、スーパー・コンビニ・宅配便などの業界の責任も無視できません。私たちはこれらの業界からも含めて救済制度の財源を拠出するよう要請しています。
大気汚染は改善されたのに?
環境大臣はそう言っています。確かにNO2やSPMは昔より改善されています。でも医学的に安心な基準には届いていません。のみならず近年注目を浴びている最悪の大気汚染物質PM2.5は今でも都市部の多くで環境基準を超過しています。
また注目すべきは、東京都の認定患者に対するアンケートでは、ぜん息と診断された時期の平均は1990年とされています。今救済すべき患者の多くは20年以上も苦しんでいる方々だということです。
一刻も早い医療費救済が望まれます。署名用紙を同封しますので是非ともご協力をお願いします。
「上からの改憲」ではなく、憲法を活かしてこそ!
弁護士 森 孝博
2017年通常国会の施政方針演説(2017年1月20日)で、安倍首相は「その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか」と発言しました。内閣総理大臣が負う憲法尊重擁護義務(憲法99条)を無視するばかりか、改憲について権限を有しない内閣が国会にそれをけしかけるようなことは明らかな逸脱であり、許されません。こうした発言には、主権者である国民の多くが憲法を変えることを積極的に望んでいない中、「上からの改憲」を押しすすめようという姿勢が強く示されていると感じます。他方、「どう変えたいのか」については、安倍首相は極力触れようとしませんが、それは、国民の意識とのかい離どころか、まったく望まないものに変えようとしているからだと思います。いわゆる改憲会派から種々の案が挙げられていますが、2012年自民党改憲草案が象徴的に示すように、根本には、軍事や「国」を優先して国民の権利を縛る、という考え方があり、それはとても危ういものといわざるをえません。秘密保護法や戦争法の制定、辺野古新基地建設の強行、そして今国会に提出されようとしている共謀罪法案など、この間に安倍自公政権の行ってきたことも、その現れといえます。
改憲の理由として「安全保障環境の変化」ということが言われますが、歴史的に見ても、軍事による抑止は相互不信を増大させて破局的事態に至る危険があります(第1次世界大戦)。また、安心・安全な暮らしを左右する問題は、特定の国家の動向に限られません。地球温暖化、格差と貧困の拡大など、人類の生存を脅かし、かつ軍事力で解決できない新たな問題が生じています。こうした問題の解決には、幅広い平和的協力関係が必要で、日本国憲法こそがその活路を示しているのではないでしょうか。いま求められているのは、憲法を変えることでなく、きちんと活かすことだと思います。
他人事ではない「テロ等組織犯罪準備罪」
弁護士 小林 容子
「共謀罪」処罰法案が、通常国会に提出されようとしています。2003年、2004年、2005年と3回も廃案となったものを、名称を変えて、なんとしても成立させようというものです。
菅官房長官は、「一般の方は対象になることはあり得ない」、「テロ対策だ」ということを強調していますが、信じることはできません。歴史を振り返っても、「治安維持法」は「国体若しくは政体を変革し又は私有財産制度を否認することを目的として結社を組織し又は情を知りてこれに加入したる者」を取り締まる法律であるとしながらも、適用対象が拡大され、宗教者や市民など広く戦争に反対する人々が逮捕されたり弾圧されることにつながったのです。
「テロ等組織犯罪準備罪」も、「組織的犯罪集団」だけが対象だとしながら、どのような行為が処罰されるのか明確ではないうえ「組織的犯罪集団」と認定するのは政府や警察ですから、労働運動や市民運動、友人同士の集まりさえも「組織的犯罪集団」として処罰の対象とされる危険性をはらんでいることは「治安維持法」と同じです。さらには、捜査を口実とした盗聴や監視が横行することにもつながります。けっして他人事ではありません。
「テロ対策」を強調して「テロ等組織犯罪準備罪」処罰法案を提出した政府の狙いが、既に成立している特定秘密保護法などとあわせて戦争ができる法制度を何としても作ろうというところにあることは明らかです。私たちの自由を守るために、「テロ等組織犯罪準備罪」処罰法案に反対しましょう。
【Q & A】離婚後の氏はどうなる?
Answer/ 弁護士 小林 容子
このたび、夫と話し合って、離婚することになりそうです。夫との間には小学生の子どもと中学生の子どもがいますが、子どもたちは、私が親権者となって私と生活する予定です。子どもたちは、自分たちの名字がどうなるのか心配しています。離婚によって名字はどうなるのでしょうか。
まずあなたの氏(名字)ですが、離婚すると、結婚に際して氏を変えた者は、結婚前の氏に戻るのが原則なので、あなたが結婚によって氏を変えていれば、結婚前の氏に戻ることになります。しかし、離婚の日から3ヶ月以内に役所の窓口に届け出ることによって、結婚中の氏を名乗り続けることも可能です。離婚届と一緒に届を提出することもできます。
これに対し、お子さんたちは、離婚の際の父母の氏(結婚中の名字)となります。あなたが結婚前の名字に戻る場合は、あなたとお子さんたちの名字が違ってしまうので、家庭裁判所に申し立ててお子さんたちの名字を変更する許可を得ることができます。お子さんたちをあなたの戸籍に入れるにはあなたとお子さんたちの氏が同じでなければなりません。また、あなたが結婚中の氏を選んだ場合であっても、お子さんたちの籍をあなたの籍に移すために、家庭裁判所でお子さんたちの氏の変更許可をもらわなければなりません。
仕事や学校などで使い続けた氏を変更したくないとか、結婚中の氏は使い続けたくないとか様々な思いがあるでしょうから、お子さんたちとよく話し合ってください。
なお、やむを得ない事情がある場合は、家庭裁判所に申し立てて氏を変更することもできます。