事務所ニュース:No.74 2014年8月1日発行

原発事故 今後の課題

弁護士 米倉 勉

 私は福島原発被害弁護団の活動に加わって、福島第一原発事故による多くの被害者(避難をしている方や日々の低線量被ばくの不安を強いられている方々)の被害を救済する活動に取り組んでいます。そのような活動の中で、現在感じていることをご報告します。

被害の現場周辺の現状

 事故から3年半が過ぎようとしています。それでも周辺地域の実情は、基本的に変わりません。旧警戒区域が「帰還困難区域」「帰宅制限区域」「避難指示解除準備区域」に再編成されても、我が家に住めない・戻れないという現実は変わらず、今も無人の町は、荒廃の一途をたどっています。むしろ、年月の経過は、無人の環境に順応したネズミなどの繁殖を一層進め、その他の害虫や小動物、さらには牛や豚の侵入まで、住環境の荒廃が進んでいます。臭いや汚れ、放置された雨漏りによるカビなど、もう住みたくないという避難者の悲痛な声が聞かれます。
 除染の作業が進められているという報道もありますが、実際は容易なことではありません。元々豊かな自然が特徴の地域ですから、山林や田畑が混じる浜通り地方の市町村、さらに阿武隈山系に広がる山間地域など、住宅周辺を一通り除染して線量が下がったように見えても、風が吹き、雨が降る度に、樹木や山林・田畑に堆積している放射性物質が移動して、線量は元どおりのレベルに戻ってしまいます。

人々の思い

 そのような中で、故郷を離れて避難生活を送っている人々の思いは、様々に揺れています。もとより、大切な故郷(ふるさと)であり、かけがえのない地域生活、職業、家庭生活を営んでいた場所ですから、誰しもが出来るだけ早く帰りたいのです。避難指示が解除されれば帰還したいという避難者は、少なくありません。
 しかし、残してきた自宅は上記のような状態であり、しかも除染作業で出た大量の放射性廃棄物が黒い容器に詰められて、町中に野積みされている状況です。水道などのライフライン、さらには流通、医療、学校、その他さまざまな地域社会のインフラ機能が復旧していないままでは、生活が成り立ちません。そうした状況では、住民らは帰るに帰れず、従ってまた地域の機能が回復しないという循環です。それでも、今後十分に放射線量が下がり、こうした地域社会の機能が回復すれば、徐々に帰還する人も現れるでしょう。
 しかし、政府が避難指示の基準とする年間20ミリシーベルトという線量は、通常時における放射線量の上限を画する年間1ミリシーベルトという線量と比較して突出した数字です。仮に、10ミリ、5ミリという線量に下がっていたとしても、そのような環境の所に住みたくない、戻りたくないという人がいても不思議はないでしょう。まして放射線の影響を強く受ける、子どもをもつ家庭であれば、戻れないという判断は当然の帰結です。そして、避難生活という展望の持てない生活の長期化は、中断している元の職業の再開や家庭生活の再建に向けて、もはや限界というべき耐えがたい段階に達しています。今後、いつになるか分からない避難指示の解除、あるいはその後安全と判断できる時期が到来するのを待つことは出来ないという判断も、当然のことと言うべきでしょう。

帰還圧力の高まり

 ところが、政府の政策は、こうした避難住民の複雑な心情をよそに、帰還方向の政策に舵を切ろうしているように思えます。確かに一方では、全面的な帰還という方針を撤回して、帰還断念・移住という方向を認めようという政策も同時に表明されています。しかしそれは、避難指示区域の「再々編」であり、帰還断念やむなしという区域と、それ以外の区域の、政府による線引き・分断を意味するものです。帰還断念を認める区域については、移住方向の費用保障を認めるが(ただしそれで賠償打ち切りの思惑)、それ以外については帰還を前提にした政策を強化し、避難指示の解除をもって、その後一定の期間が経過した段階で、避難生活に伴う賠償も打ち切りという方法で、事実上の帰還強要を行うおそれが高まっています。
 しかし、避難住民の意思決定は、生命と健康に関わる自己決定に関する事項です。何よりも個人の意思決定を尊重し、それぞれの選択に応じた政策の強化が望まれます。帰還する人に対しては、十分な除染措置、安全性の検証の上で、インフラ整備、住宅の復旧、その後の健康管理や生活保障などのバックアップが必要でしょう。他方で帰還を断念する人に対しては、移住を可能にするだけの不動産再取得費用の賠償、経営保障など、さらには故郷の喪失という精神的痛手を慰謝するに足りる損害賠償の支払いなどが必要です。

脱原発の政策確立を

 このような甚大な影響を及ぼす原子力発電事業は、社会的なコストとしても、到底受け入れがたいものであることが立証されつつあります。何よりも、周辺住民を広範に苦しめ、様々な被害を与える原発事故は、万が一にも再発を許してはならないと思います。その意味で、事故後最初の脱原発訴訟判決となった、福井地裁の大飯原発判決は、今後の政策の方向を指し示すものとして、大きな意味を持つと思います。万一の事故によって生じる事態をリアルに捉えて、現実に即した司法判断を下した裁判所に、敬意を表したいと思います。

集団的自衛権の行使容認の閣議決定について

~「立憲主義」の視点から考えてみよう~

弁護士 髙橋 右京

 2014年7月1日、安倍内閣は、平和主義を定める憲法9条についての政府解釈を変更し、従来認められていなかった集団的自衛権の行使について、現行憲法の下でも容認されるという解釈に変更するということを、閣議で決定しました。

 集団的自衛権とは、自国が攻撃されたわけではなくても、同盟国が攻撃を受けたら、実力をもってこれを阻止できる、という権利です。歴史を振り返れば、この集団的自衛権という概念が、戦争をするための言い訳に使われてきたことがよくわかります。ソ連によるチェコスロバキア侵攻、アフガニスタン侵攻、アメリカによるベトナム戦争、等々。みんな、集団的自衛権の行使だという理由が付けられています。つまり、日本が集団的自衛権を行使するということは、日本が上記のような戦争の当事者になり得るということなのです。そのようなことを憲法9条が許容しているなどという解釈は、到底成り立ち得ません。

 他方で、日本人も自ら武器を取って、アメリカ等の同盟国と協力し世界平和に貢献すべきなのだ、という意見をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。しかし、もし日本がそのような道を選ぶのだとしても、それは憲法改正という手続きを経るべきであり、閣議決定という形で決めてしまうことは、立憲主義の観点から、決して許されることではありません。

 近代的な意味での「憲法」とは、国民の権利・自由を守るために、国家権力を制限するためのルールです。このような意味での憲法を国の最高法規とする仕組みを、立憲主義といいます。当然、日本国憲法も同じく、国家権力を制限するためのものです。これは、人類が長い歴史を積み上げてきた結果獲得した財産であり、近代国家にとって基本原則というべきものです。だから、制限される側の国家権力は憲法を尊重しなければならないし、その中身を変えようというのなら、国会での通常の議決だけでは足りず、国民投票を含む厳格
な要件が必要とされているのです。憲法の解釈をときの政権が好き勝手に変えるなどという行為は、上記のような立憲主義という考え方に真っ向から反することで、決して許されません。

 ところが安倍政権は、改憲による集団的自衛権行使の実現が困難だと見るや、憲法の解釈としての限界を無視し、閣議決定という形で集団的自衛権の行使を認めてしまいました。こんなことが認められては、憲法による権力への歯止めはかからなくなってしまいます。これはまさしく立憲主義の破壊であり、独裁国家への第一歩とすらいえるかもしれません。

 したがって私は、今回の閣議決定について、平和主義の観点からも、立憲主義の観点からも、決して認めることはできません。皆さんも、もし共感していただけたなら、一緒に声を上げていきましょう。今からでも遅くはありません。

ぜん息医療費助成制度 来年3月で認定打切りか?

~まだの患者さんはすぐに申請を!~

弁護士 原 希世巳

◆発足して6年、8万人のぜん息医療費を無料に。

 これは都内在住のぜん息患者の医療費の自己負担分全額を東京都が助成する制度です。11年間たたかった東京大気汚染公害裁判の和解で作らせた制度です。被告の自動車メーカー、国、東京都などが200億円の原資を拠出して始まりました。当事務所では小林、萩尾、千葉、吉田の各弁護士とともに担当しました。

◆制度見直しに対する患者さん達の必死の運動

 東京都は平成26年度に200億円の財源が尽きることを理由に、制度の打切りも含めて見直すとしていました。そこで昨年来、東京公害患者会を中心に、東京都との団体交渉、都庁前座り込み、都議会各会派への要請など患者さん達は必死の思いで無償制度の存続のため運動してきました。都内の8割近い地域医師会が意見書をあげて応援してくれました。

◆何とか制度は存続、しかし…

 運動の甲斐あって、東京都は制度打ち切りとは言わなくなりました。しかし① 2015年3月で新規の患者認定を終了し、②助成内容も従来の東京都の分担分である3分の1の財源の範囲で行う、③経過措置として、認定患者は2018年3月までは全額助成を継続する、としています。一定の成果ではあります。9月の都議会で制度改正案が出される見込みですが、患者会としては最後まで現行の無料制度存続を目指して運動をしていきます。

◆喘息患者さん、一人残らず認定を受けましょう。

 この制度によって、患者さんはきちんと定期的に通院するようになり、費用を気にしないで自分にあった治療を追求するようになって、過半数の方の症状が改善しています。認定を受ければ当面少なくとも3年間は治療費の心配をしなくてよくなります。認定申請は今年度までとなる公算です。まだの方はすぐに認定申請しましょう。申請手続などについては東京公害患者会(5840-8446)にご相談下さい。

JAL不当解雇撤回裁判東京高裁判決のご報告とご支援のお願い

弁護士 森 孝博

 本年6月、東京高等裁判所において、JAL不当解雇撤回裁判の客室乗務員事件(東京高裁第5民事部)、運航乗務員事件(同第24民事部)の判決言渡しがありました(客室乗務員事件は6月3日、運航乗務員事件は6月5日)。

 約2年にわたる東京高裁の審理において、原告側が、解雇の時点(2010年12月末)で会社が目標とした人員体制がすでに達成されており、解雇の必要性がなかったことを主張・立証したのに対し、会社(被告)側は当時の在籍人数等を示す証拠を容易に提出できるはずなのに、何も提出せずに沈黙していました。また、原告側は、会社が巨額の利益を計上していたことや、不当解雇の強行に至る経緯を詳細かつ具体的に主張・立証して信義則違反や不当労働行為の存在も明らかにしたのに対し、会社側はほとんど反証しませんでした。

 しかし、いずれの高裁判決も、上述したような原告側の主張・立証を全く無視し、一審の東京地裁判決同様に会社側の言い分を鵜呑みにして、解雇の合理性が認められるとしました。この判断は、労働者の権利や雇用保持の利益(憲法27条・28条や労働関係法令)に全く配慮せず、事実と道理を無視した著しく不公正なものといわざるをえません。

 このような誤った司法判断を正すため、本年6月17日、客室乗務員71名、運航乗務員64名が最高裁判所に上告しました。私も引き続き訴訟代理人として原告を支えていく所存です。解雇自由や残業代ゼロ等、労働者の権利をないがしろにしようとする動きが強まる中、労働者の権利救済を求めてたたかうこの裁判の意義はますます重要になっていると強く感じています。

 皆様、引き続きご支援、ご協力をお願い申し上げます。 

【Q & A】相続人不存在

Answer/ 弁護士 千葉 恵子

 私の義理の弟が病院に入院中です。義弟は、結婚しておらず、子どももいません。両親も既に他界しました。義弟の兄弟は私の夫ただ1人で、既に亡くなり、私と夫との間に子どもはなく、夫に他に子どもはいません。義弟が亡くなった場合には、その財産はどうなりますか。

 義理の弟さんには、相続人がいませんから、遺言があるなどの場合を除いて遺産は弟さんの債務の支払いなどの一定の手続を済ませた後は、国庫に帰属します(民法959条)。

 私は、相続できないのですか。私は、義弟の家の隣りに住んでおり、日頃から義弟に食事を届けたり、私が料理した食事を一緒に食べたりしています。また、義弟が入院する時の保証人になったり、入院中の洗濯や身の回りの世話、水道光熱費の支払いをしてきました。義弟が亡くなれば、葬儀等も私がやる予定でいます。
 夫が生きていれば、夫が相続人となって、ゆくゆくは夫の遺産として私も相続できた可能性もあります。亡くなる順番で、遺産全てが国庫に帰属するような事になるのは納得いきません。

 あなたは、相続人とならないので、相続できないのですが、特別縁故者と認められれば、相続財産の分与を認められます(民法958条の3)。
 特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養監護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者を言います。
 あなたは、この特別縁故者にあたり得ますから、請求をすれば、一定の遺産の分与を受けることが可能です。

 全部の遺産を取得することはできませんか。

 条文上は特別縁故者に対して「全部又は一部を与えることができる」となっていますが、よほどの事情がないと全部の分与を受けることはできません。

 どのような手続になるのですか。

 相続財産管理人選任の申立、管理人の選任、その後、相続人がいないかについての確認、債権者や受遺者がいないかの確認をします。債権者や受遺者がいない場合、債務の支払いをして財産が残った場合に、特別縁故者に対する財産分与審判の申立をして、財産管理人の調査があって、その後審判となります。確認の為の期間が2ヶ月、それ以上などの規定があるため、審判までに1年はかかります。
 もし、義理の弟さんが全部ないし一部の遺産をあなたに譲りたいと思っておられるようならば、遺言書を作成されることをお勧めします。あなたと義理の弟さんとの間で死因贈与契約を結ぶことも考えられますが、口頭での約束だけで書面を作成しないと相続財産管理人に契約を取り消されてしまいますので、必ず書面を作成するようにしてください。
 不備があってお困りにならないように、お気軽に弁護士にご相談下さい。

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