事務所ニュース:No.80 2017年10月1日発行
晴海オリンピック選手村住民訴訟 ―地価の1割で敷地譲渡契約―
弁護士 千葉 恵子
1 2017年8月17日、都民33人はオリンピック・パラリンピック東京大会の選手村整備に関して、東京都が特定建築者11社と都有地について総額129億6000万円で譲渡するとする契約を結んだことなどの一連の行為について、違法かつ不当な低廉価格による売却処分による損害の賠償請求などをするように東京都知事に求める訴訟を提起し、当事務所からは淵脇、小林、吉田、千葉、山田が代理人となりました。
2 本件の土地は銀座から近い晴海にあるにもかかわらず、譲渡は坪約30万円でなされています。価格は近隣相場の約10分の1です。
都有地を処分するにあたっては、条例又は議会の議決(地方自治法237条2項)東京都財産価格審議会での評価(東京都財産価格審議会条例2条1項)などが必要ですが、本件ではありません。
再開発の手法で行っていることを都は主張していますが、再開発法上の土地の価格についての規制(都市再開発法80条)も受けていません。これは、地権者、施行者、認可権者という再開発では本来複数、別人であるそれぞれの立場の人が本件では都が全ての立場を兼ねていることによるものです。
地方公共団体施行ではなく、個人施行で行っていること、地権者全てが転出するということと合わせて再開発では例を見ない手法です。
実態としては、都が大手デベロッパーに土地を直接、相場の1割で譲渡したと言いうるものです。
官製談合防止法2条の問題もあります。
3 住民訴訟の前に監査請求を行う必要があり、5月19日に監査請求を行いました。
6月15日、監査委員が請求人2人、代理人1人の意見、整備局の担当者から意見を聞きました。
そして、7月18日に監査結果がでました。内容は、請求人の主張には理由がないという不当なものでしたが、
①本件事業を第一種市街地再開発事業(個人施行)で実施することに伴い、都が、地権者、施行者、認可権者の三つの役割を併せ持つことにより、本件土地の処分を巡る一連の手続が、中立的かつ公正な監視や牽制の下で行われないとの懸念を生む状況が生じたので、都には内部牽制体制の構築や、事業手法決定に関する情報開示などについて、通常以上の対応が求められる。
②本件事業の今後の実施に際しては、これまで以上に透明性の確保に努められたい。
という意見が付されました。
このような意見がついたのは、監査委員が手続、内容に問題があると感じたからと思います。
監査では、担当局である整備局への調査、国土交通省に対する調査、不動産会社からの意見聴取もなされました。
4 監査結果が出てから30日以内に訴訟の提起をしなければならず、8月17日の提訴となりました。東京オリンピックに関して、費用などが問題になっています。都民の財産である土地の売却は適正な価格でなされるべきです。
本訴訟ではその事を情報、決定過程を明らかにしてもらい、問うていきたいと考えています。
ご支援を宜しくお願いします。
日本国憲法をめぐる現状について
弁護士 森 孝博
本年5月3日(憲法記念日)の読売新聞インタビューで、安倍首相は「安全保障環境が一層厳しくなっている中、『違憲かも知れないけど、何かあれば命を張ってくれ』というのはあまりに無責任だ」、「例えば、(憲法9条)1項、2項をそのまま残し、その上で自衛隊の記述を書き加える。そういう考え方もある」などと述べて、期限を2020年施行と区切って憲法「改正」に取り組むべき、だとしました。
一見すると単なる付け足しのようにも思えますが、そうではありません。日本国憲法は一切の戦争を放棄し、それを確実なものとするために9条2項で「戦力」の保持を禁止しました。自衛隊は、その実態からして「戦力」と考えざるをえませんが、自衛隊を合憲とする日本政府においては、常に自衛隊が「戦力」に該当しないことの説明等が求められてきました。それが一定の歯止めとなってきたのですが、自衛隊を憲法に書き加えて9条2項とは矛盾しない存在となれば、そうした制約はなくなります。とくに安倍政権においては、新日米ガイドラインの締結(2015年5月)、戦争法制(平和安全法制)の制定(同9月)、同盟調整メカニズム(ACM)の設置(同11月)など、自衛隊とアメリカ軍との一体化が強く志向されています。こうした現状に鑑みると、「現在ある自衛隊」を憲法に明記するということは、世界各地で戦争をするアメリカの補完戦力としての役割を正面から認めることになりかねません。
また、自衛隊は、1954年7月の発足以来、一人の戦死者も出していませんが、これはアメリカ軍をはじめとした他国の軍隊では考えられないことです。この世界で類を見ない「特異性」は9条2項が前述した一定の歯止めになってきたためといえます。その歯止めを戦争法制によって大幅に緩和した上、南スーダンの戦闘状態までも隠蔽して、陸上自衛隊のPKO派遣続行と危険な新任務(駆けつけ警護、宿営地の共同防護)の付与を決めたのが安倍政権です。安倍首相の上記発言とは裏腹に、むしろ個々の自衛官に無責任に命を張らせるものこそが、安倍首相のいう自衛隊の「合憲化」と言わざるを得ません。
そもそも、安倍首相は、集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定や、戦争法制の成立および施行の際にも、「安全保障環境が厳しさを増している」が「(法整備等で)抑止力が高まり、紛争が回避され、我が国が戦争に巻き込まれることがなくなる」といったことを繰り返し述べてきましたが、今でも中国や北朝鮮の「脅威」を強調して改憲に突き進もうとしています。自衛隊の増強やアメリカ軍との一体化が「抑止」どころか緊張の高まりにしかなっていないのに、それ(安全保障のジレンマ)を逆手に取って、いっそう「戦争する国づくり」を進めようとしているのが実態ではないでしょうか。北朝鮮のミサイル等の「脅威」を強調する一方で、日本海側にある危険な原発を次々と再稼働させており、本当に国民を守る気があるのでしょうか。改憲の「本音」を見抜くことが重要だと感じます。
安倍首相の上記発言を受けて、自民党は今秋に予定されている臨時国会に自民党の新たな改憲原案を提出することを目指していると報道されています。今後も憲法をめぐる動向を注視していきたいと思います。
【Q & A】賃貸マンションの保証人はずっと責任を負うのですか?
Answer/ 弁護士 米倉 勉
私は兄に頼まれて、兄が住んでいる賃貸マンションの賃貸借契約の連帯保証人になっています。ところが兄が家賃を長期間滞納して、大家さんから私に支払うように請求されています。
保証人を引き受けた以上、義務があるのは分かりますが、これからもずっと兄の代わりに家賃を負担しなければならないのは到底納得がいきません。私の責任は、いつまで続くのでしょうか。私が契約書にサインして印鑑を押したのは、5年前の契約の最初であり、2年契約でした。その後に更新の合意をしたそうですが、私は知らされていませんでした。
借家などの契約は、通常更新が予定されており、長期に及ぶことが当事者の認識であることから、更新後の滞納分についても保証人に支払い義務があるというのが最高裁の判例です。但しこの判例は、長期にわたって家賃の滞納があるのに賃貸人が保証人に連絡もせずに契約を更新した末に、高額の支払いを請求してきたような場合には、支払う義務がないとしています。このような判断からすれば、滞納期間のうち、ある程度以降の分は、減額を求めることがあり得るでしょう。また、今後については、また滞納があれば知らせてもらうよう要求しましょう。そして数ヶ月に及ぶような滞納があれば、賃貸契約の解除をするように要求することや、そうした措置をとらないのならば、さらなる更新後の保証債務は負わない旨の通知をすることで、以後の義務を免れることも可能であろうと思います。
なおご兄弟でもありますし、お兄さんが何故家賃の滞納をしてしまうのかを、確かめることが必要だと思います。もし何かの事情で過重債務の状況に陥っているのなら、きちんと債務整理をして、これ以上の不払いに陥らないような手当をすることが先決です。もし病気などで収入がないのであれば、無理のない家賃のアパートへの転居なども考えるべきでしょうし、社会福祉の手当てなども必要です。