事務所ニュース:No.85 2020年4月20日発行

民事執行法改正
養育費等の不払いに悩んでいませんか?

弁護士 山田 聡美

銀行の口座や勤務先も調べられます

 せっかく養育費を決めても、「支払ってくれなくなって困っている…」という方はいませんか。
 養育費の不払いがあれば、預貯金や給与への差押えが考えられます。ただし、今までは、相手方の銀行口座や勤務先などを特定することができなければ、預貯金や給与への差押えはできませんでした。しかし、それらの情報を入手することは難しい場合も多く、不払いになればそのままあきらめてしまうケースもありました。
 そこで、今回の民事執行法改正で、次のように情報を得る手段が出来ました。
 ① 金融機関等から預貯金の口座等の情報を取得
 ② 登記所から不動産に関する情報を取得
 ③ 市町村や日本年金機構等から、勤務先に関する情報を取得。

養育費でなくても預貯金や不動産は調べられます

 左記①や②は養育費等に限らず、貸金や様々な金銭債権の取り立てで利用可能です。
 ただし、左記③の勤務先に関する情報の取得については、Ⓐ養育費等の扶養料等債権やⒷ生命身体に関する損害賠償の場合のみ利用可能です。

弁護士へご相談

 上記の情報取得の手続きを利用するためには、判決や調停調書などが必要です。養育費を含め金銭請求をお考えの方は、ぜひ当事務所へご相談ください。
 これまでよりも、債権回収のための手段が広がりましたので、新しいルールも活用していきたいと思います。

年金「振替加算支給漏れ」時効援用取消訴訟

弁護士 淵脇みどり

 配偶者の加給年金の振替加算放置問題について、厚生労働省は2017年9月にその誤りを認め、10万人に「原則時効援用は行わない」と発表しました。行政の誤りとは、この制度の周知徹底をせずに、配偶者の加給年金が停止しても、振替加算の受給のために「生計同一関係にある」との届け出が出されなかったとして、支払わずに放置したことです。なんと制度実施から26年も経過しています。
 ところが、そのほかに4万人については、「生計維持関係がないとの申告を行った一定の帰責性があるから」として差別し、時効を援用しました。不服審査請求でも、国は「生計維持関係がないという申告を行ったのではない」「証拠文書は廃棄済み」と認めたものの、「帰責性」の説明もできませんでした。私の母もその一人で、14年分の振替加算金が支払われませんでした。私は母と同じ立場のTさんと2名の代理人として、2019年4月に国を相手に裁判を起こし、この差別的扱いに合理性がないと主張しました。国(厚生労働省)は、合理的な説明をすることができず、本年2月14日、未支給分全額を支払いました。私は法廷で「他にもたくさんの不合理な差別を受けている人がいるので、制度全体の改善を」と求めましたが、国はかたくなに「原告についてだけ払う」との態度にとどまっています。

 年金者組合も声明を出し、原告以外の受給者にも早期に全額支払うように求めています。

コラム:星条旗を焼く自由 ~国旗と反政府運動を考える

弁護士 吉田悌一郎

 もう数年前になるが、「ハーツ&マインズ ~ベトナム戦争終結40年」という映画を観た。その中で、アメリカ国内でベトナム反戦運動を行うデモ隊が、アメリカの国旗である星条旗を掲げているシーンを見て仰天したことがある。ベトナム反戦運動は反政府運動であるはずなのに、国旗を掲げてデモをしている。日本で言えば、原発反対運動をしているデモ隊が日の丸を掲げるなんて、ちょっと考えられない。
 「9条どうでしょう」(内田樹編・ちくま文庫)という本を読んで、その謎が解けた。アメリカの憲法は、政府と戦う権利をも保障している。開拓の歴史やイギリスとの独立戦争の経緯などから、いわば自由を脅かす圧政にゲリラで抵抗する権利を保障しているのである。思想信条の自由も徹底され、星条旗に反対したり、星条旗を焼き捨てる自由すら保障されている。
 ここまで徹底した自由を保障した結果、右にとっても左にとっても、星条旗は自分たちの主張の正しさを裏付ける象徴となり、誇りとなる。かくして、アメリカでは、保守も反体制も、少数民族もみな自由の象徴である星条旗を振ることになるのだそうだ。
 これに対して、わが国では国旗や国歌を上から押しつけ、無理矢理愛国心を植え付けようとしている。こうした愛国心の押しつけは反発しか生まれない。
 日本国憲法の理念からいっても、本来は、国旗や国歌に反対する自由をも尊重しなければならないはずである。
 そして、真の愛国心というものは、こうした徹底した自由の保障がなされた中でこそ生まれるものなのであろう。

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