事務所ニュース:No.72 2013年8月1日発行
憲法96条「改正」は誰のため?
弁護士 小林 容子
憲法96条「改正」は参院選の重大争点
日本国憲法96条は、憲法改正手続について、「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」で国会が発議し、国民に判断を仰ぐと定めています。これに対し安倍晋三首相を中心とする自由民主党は、三分の二の発議要件はハードルが高すぎる、これでは国民が憲法を変えることができない、と憲法96条の「改正」を打ち出しました。維新の会やみんなの党はこれに賛成しています。
そのため、7月21日に実施される参議院議員選挙では、憲法96条の「改正」問題が重大な争点となってきました。
改憲のハードルが高いと国民は困るの?
憲法96条の「改正」をしようとしている人たちが言うように、私たち国民にとって、憲法は変えやすいほうがよいのでしょうか。このことを考えるにあたっては、そもそも私たちにとって憲法がどのような意味を持つものなのか、振り返る必要があります。
憲法は、国家権力が自由勝手に国民の権利を奪うことができないように、国民の権利や国家権力が守らなければならないルールを定めたものです。その証拠に、憲法99条が憲法を尊重し守るよう義務付けた名宛人のなかに、「国民」は含まれていません。憲法が国家権力の都合で簡単に変えられるようでは、国民の権利が守られなくなってしまうおそれがあります。国民にとっては、改憲のハードルが高いほうがよいのです。
また、日本国憲法が時代遅れだから、時代に合わせて新しい人権を定められるようにしたほうがよいという理由をあげて憲法96条を「改正」する必要があると言う人もいます。しかし、日本国憲法は良くできていて、時代の変化によって生まれる新しい人権も、憲法13条や既に定められている人権規定のなかに読み込んで認められています。
このように、国民にとって憲法96条を「改正」する必要はまったくありません。
本当の狙いは憲法改悪
では、憲法96条を「改正」しようとしている人たちの本当の狙いはどこにあるのでしょうか。この答えは、自由民主党が昨年4月に発表した「憲法改正草案」を見ると一目瞭然です。
自由民主党の「憲法改正草案」では、天皇元首、日の丸・君が代、元号、「公益及び公の秩序」による人権の大幅な制限、家族条項の新設、国民の義務の強調、財政の健全性確保の条項、日本国憲法の戦争放棄の条項(9条2項)を削除、国防軍の創設などを定める外、国民にも憲法を尊重する義務を課しています。
この「憲法改正草案」を見ると、まるで戦前の日本に戻そうとしているように思えます。そして、日本を、天皇の名のもとで戦争をすることができる国にしようというのでしょう。
自由民主党は、結党以来日本国憲法の「改正」を党是としています。そして、2001年4月に成立した小泉内閣は、自衛隊のイラク派兵を強行して憲法を歪めました。この時の自由民主党幹事長が安倍晋三氏です。その後の第1次安倍内閣は、改憲手続法を作るなど憲法「改正」を目指しましたが、9条の会が全国に広がるなど、憲法を守ろうという国民の強い声で、失敗に終わりました。
そこで出てきたのが、憲法改正のハードルを低くしようという憲法96条の「改正」です。本当の狙いは、その先の戦争ができる国に変えるための憲法改悪です。けっして、国民のための改正ではないのです。
憲法改悪を許さないために
現行の日本国憲法は、天皇制のもとで侵略戦争を起こした過去を反省し、国民主権のもとでひとりひとりを大切にして平和主義を追求することを高らかにうたっています。ぜひひとりでも多くの方に日本国憲法の素晴らしさを知っていただき、憲法改悪をストップさせましょう。
憲法学習会に呼んでください
お友だちの集まり、職場の昼休みなど、2~3人の会でもOKです。憲法を勉強してみませんか。弁護士が講師としておじゃまします。気軽に事務所までお電話をください。
「3.11 福島から東京へ ―広域避難者たちと歩む」(山吹書店)
弁護士 吉田 悌一郎
あの震災からちょうど1週間後の平成23年3月18日、私の長年の友人であり、ホームレス問題で著明な後閑一博司法書士による1本の連絡からすべてが始まった。
数日前より、埼玉県がイベント施設であるさいたまスーパーアリーナを避難所として開放し、そこに福島県からの避難者が続々と集まっている。そのさいたまスーパーアリーナで、
被災者のニーズ調査を開始しているが人出が足りない、時間があったら現地に応援に入ってくれないかというものだった。
私はその連絡を受けて、何かに突き動かされるようにしてさいたまスーパーアリーナの現地に走った。いざさいたまスーパーアリーナ、あれがすべての始まりだった。
さいたまスーパーアリーナは、イベントホールを丸く囲むらせんの「廊下部分」が避難所として開放されていたのであるが、その「廊下部分」には所狭しと段ボールでとりあえずの床と囲いを作り、毛布や食料などを置いている避難者で、4階5階部分まで埋め尽くされていた。生まれて初めて目の当たりにするその「避難所」の光景はまさに壮絶であった。
現地には、すでに知人や顔見知りの弁護士や司法書士などが何人も駆けつけていた。すぐに調査票と筆記用具だけ持ってニーズ調査を開始した。「廊下部分」の避難所には、
数々の避難者やボランティアグループのメンバー、自治体の職員など多数の人間が行き来していた。段ボールの床と囲いだけの、外から丸見えのとりあえずの住居を構えた避難者は、毛布をかけて寝そべっている人、食事をしている人、知人と談笑している人など様々であったが、こうした避難者1人1人に順々に声をかけていった。
翌3月19日、東京都内にも味の素スタジアムや東京武道館などが避難者向けに開放されていたことから、東京でも被災者支援団体を結成する必要性が議論され、主に後閑司法書士らを中心に法律家、支援者らで「東京災害支援ネット(とすねっと)」が結成された。私も微力ながらその活動の末席に加わることとなった。
その後私たちは、避難所となっていた味の素スタジアム、東京武道館、旧赤坂プリンスホテルなどに通うことになる。結成されたばかりの「とすねっと」は、2日から3日おきに事務
局会議が開催され、日々刻々変化する避難者の情勢や今後の支援についての議論がなされた。参加者の日程の都合から、日曜日の夜に事務局会議が開催されることもあり、1回の会議が3時間、4時間に及ぶこともあった。
会議が終わると一杯飲んでクールダウンすることも忘れない。しかし、みんな酒を飲んでも話題は「被災者支援」の話で持ちきりであった。私もそんな「熱い」仲間たちに引っ張られながら活動を続けてきた。
「とすねっと」は私の被災者支援活動の原点である。微力ではあるが、これからも「とすねっと」での活動を続けていきたい。
この度、私たち「とすねっと」のこれまでの活動の記録が1冊の本にまとめられ、発売された。冒頭の「3.11 福島から東京へ 広域避難者たちと歩む」(山吹書店)がそれである。私も一部ではあるが執筆している。関心のある方は是非お買い求め下さい!
福島原発事故の被害救済 ―2つの裁判を提起しました
弁護士 米倉 勉
当事務所では、私と吉田・高橋・森・川井の各弁護士が、「福島原発被害弁護団」に参加して、被害救済の活動を行っています。
避難者訴訟
弁護団では、昨年12月3日に、警戒区域等からの避難を強制された多数の被害者による「避難者訴訟」を提起しました。これらの避難者は、事故までに築いてきた仕事や生活を全て残したまま、先の見えない避難生活を余儀なくされています。これによる、さまざまな被害の賠償を求め、生活の再建を図るための訴訟です。被告は東電です。
いわき訴訟
これに続いて今年3月11日には、いわき市在住の822人の市民による、「元の生活を返せ!いわき訴訟」を提起しました。政府は避難区域を指定する基準として、年間20ミリシーベルトという数値を設定しましたが、そのレベルに達していない地域でも、相当な線量の放射線に日々晒される生活が続いています。一般人における放射線量の管理基準は、本来年間1ミリシーベルトです。このような低線量の長期的な被ばくがどのような影響をもたらすかについては、結論が出ていません。放射線の人体(DNA)に対する侵害の仕組みやガンの発生の機序からすれば、線量が低くても閾値なく直線的に影響が現れるはずだが、統計的な実証データは得られていない、というのが現在の科学的知見の限界です。そのために、地域住民は、将来どのような影響が出るのか「判らない」という不安とストレスに晒されています。そうした地域で生活し、経済活動を営む地域住民は、これによる様々な心理的影響、社会的影響を受けざるを得ません。若い世代は、今後の就職や結婚などにおける差別的な扱いも心配しています。地域の産業も、農業や漁業はもとより、それ以外の多くの業種で減収などの経済的影響を被り、いわば地域コミュニティ全体が大きな打撃を受けています。「平穏生活権」の侵害と表現するのが相応しい事態でしょう。こうした日々の影響による精神的苦痛について、大人1人月額3万円、子どもは8万円の慰謝料等の支払いを求めたのがこの訴訟です。被告は東電と国です。
裁判の今後
避難者訴訟といわき訴訟は、ともに福島地裁いわき支部に係属しており、いずれも7月には第1回の進行協議期日を迎えて、被害救済の裁判の両輪として進んで行きます。
しかし東電も国も、おそらく「年間20ミリシーベルト以下の被ばくによって健康被害が生じるという科学的裏付けは得られていない」と主張して、被害そのものを争ってくることでしょう。避難者訴訟についても、東電はこれまでの自主交渉の席において、避難生活による精神的苦痛を不当に低く評価する対応を続けています。そのうえ、今後避難指示が徐々に解除されと、「線量が下がったから、もう被害はない」という反論を構えてくるかもしれません。しかし上記のように、低線量被ばくにおける健康上の影響は、「わからない」というのが正確な理解であり、帰還の強要は二重の加害行為であるというべきです。
まして、「帰還できる以上、残してきた自宅の価額の2分の1しか賠償しません」というような反論が認められることになれば、避難者は帰還するしかなくなります。しかし、人生は有限なのですから、避難先で新たな仕事と生活を再開し、自宅を購入するという選択をした避難者に、もう一度移転せよと要求することは理不尽です。
今後、放射線の与える不安とストレスという、この事故がもたらした事態の本質に関わる論戦が始まります。平穏生活権の侵害について正当な救済が認められる日まで、息の長い取り組みを続けていきたいと思います。
【Q & A】「夏だ!気持ちよく働き、おいしくビールを飲む秘訣」
Answer/ 弁護士 川井 浩平
梅雨だというのに雨がほとんど降らず、早くも夏の水不足を心配しているのは私だけでしょうか? 今年の冬は例年になく厳しい寒さが続きましたが、最近の夏の暑さも本当に厳しいですよね。 今年の夏も例年とおり猛暑となりそうです。 さて、そんな暑い夏には、アフターファイブのビールが活力源!といった方も多いのではないでしょうか? しかし! おいしいビールを飲むためには、職場でストレスが溜まっていてはいけません。ただのヤケ酒になってしまいますよね。
そこで、今回は身近でよくある職場の悩みを解決してしまおうかなと思います!
会社の事情で仕方なく、サービス残業や家に持ち帰って仕事をしている。これらの仕事に関して残業代は請求できないの?
できます。 残業、いわゆる時間外労働は会社と協定(三六協定と言われます)を結んだうえで、八時間労働の例外として許されるものです(もちろん三六協定を結んでない場合で
も、残業すれば残業代が発生します)。例外であるからこそ残業に対しては、割増賃金になるわけですね。
しかし、多くの企業は予算を超える残業代は払わないとか、残業時間の申告の自粛を迫ってくることがあります。いわゆる「サービス残業」の横行です。
残業代を請求するのは、働く人たちの権利です。
企業が時間外労働を指令していたか否かにかかわらず、時間外の労働を黙認していれば、その時間は時間外労働に含まれるという裁判例もあります。
会社に残業代を請求するためにも、何月何日に何時間残業をした、などを客観的に証明できる記録(例えばパソコンのログイン、ログオフ記録)などを残しておきましょう。
女性社員に対して、上司が卑猥な言葉を言ったり、雑用を押し付けてきたりして困っている。何とかならないものか?
何とかなります。いわゆる「セクハラ」にはどのようなものが含まれると皆さんは思いますか?
例えば、国家公務員の場合、人事院規則で、被害者を女性に限定せず、職場外での行為も問題にしています。また、性的な言動については、「性的な関心や欲求に基づく言動」以外に、「性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動」などが含まれます。
「雇用機会均等法」という法律をネットなどで調べてみてください。その第11条に会社はセクハラ防止のために配慮する義務が明記されています。会社側にセクハラを防止する義務があるのですから、セクハラ被害にあった場合には「ノー!」と言いましょう。面と向かって言いにくい場合には、同僚と一緒に意見したり、匿名のアンケート等で工夫して、相手に「ノー!」を伝えるようにしましょう。
それでもセクハラが続く場合は、女性センター等の相談窓口を叩いてみましょう。もちろん当事務所の弁護士にご相談いただいてもかまいません。
いずれにせよ、セクハラ被害を受けた客観的な証拠(会話の録音テープ)など、負担にならない範囲で集めておくとよいでしょう。
このほかにも、配転・出向、派遣、過労死…職場の問題は挙げればきりがありません。どうか、お一人で悩まずに、ご家族や近しい友人に相談してみてください。当事務所にご連絡いただければ、労働問題において経験豊富な弁護士が対応いたします。
それでは最後に、皆さんが気持ちよく働き、おいしいビールが飲める夏であることを願って、カンパ~イ!!