事務所ニュース:No.76 2015年8月1日発行
【お礼】
福島原発事故の避難者の住宅の無償提供期間の延長を求める署名にご協力ありがとうございました!
弁護士 吉田 悌一郎
2011(平成23)年3月11日に発生した福島原発事故によって避難生活を余儀なくされている人は、現在でも約12万人いると言われています。
現在、こうした福島原発事故の避難者は、災害救助法により、避難先で自治体から住宅の無償提供を受けることができる制度があります。この制度に基づき、たとえば東京都の場合は、現在都営住宅や公営住宅などをいわゆるみなし仮設住宅として避難者に無償で提供しています。
ところが、この住宅の無償提供の期限は、これまで1年毎の延長が繰り返されてきましたが、今後はこの無償提供の期限を延長しないという方針が打ち出されています。
この住宅の無償提供が打ち切られると、避難者の生活が立ち行かなくなってしまいます。避難者はみな、自分の好きで苦しい避難生活を選択しているわけではありません。避難せざるを得ないから避難しているのです。
そこで、昨年から今年にかけて、原発事故の避難者の団体である「ひなん生活をまもる会」(http://hinamamo.jimdo.com/)などが中心となって、住宅の無償提供期間の延長を求める署名活動を行ってきました。
前回の事務所ニュースにてみなさまにもご協力をお願いし、多くの署名を集めて送っていただきました。本当にありがとうございました。おかげさまで、署名は全部で4万4978筆も集まり、この署名を本年5月13日に内閣府に提出しました。
ところが、その後、福島県避難地域復興局は、6月15日に県庁内で福島原発事故で政府による避難指示区域以外の地域から避難している避難者について、災害救助法に基づく応急仮設住宅の無償提供を2017年3月末で打ち切ると発表しました。福島県の発表は、区域外避難者を含めた原発事故避難者の多くが望んでいる「長期・無償」の避難用住宅提供の要望に真っ向から反するものであり、決して認めることはできません。
実は、住宅の無償提供の打ち切りは、賠償の打ち切りとセットとなっており、国による、避難者を強制的に帰還させる政策の一環なのです。住宅の無償提供がなく、賠償金も打ち切られれば、避難者は、放射線量の高い危険な地域に嫌でも帰らざるを得ないことになってしまいます。
情勢は非常に困難な状況ですが、今後も粘り強く運動を続け、なんとしても住宅の無償提供期間の長期延長を勝ち取るためにがんばって行きたいと思います。
労働時間規制緩和の問題点
弁護士 川井 浩平
「日本を世界で一番ビジネスがしやすい国に」をスローガンに労働者派遣法の改正案が今国会に提出され、議論が紛糾しています。まずは、今までの派遣法とどこが変わるのかを説明します。
まず、現行の派遣法では、派遣可能期間(3年)を特定の「業務」で規制していました。つまり、同一業務での派遣受け入れ可能期間は最長でも3年とされており、派遣労働者を交替させたからといって、その業務について、3年を超えて派遣労働者で行うことはできませんでした。派遣労働は、一時的・臨時的なものと捉えられていたのです。
これに対し、改正案は、派遣可能期間を「人」で規制します。同一労働者の「同一事業所」での派遣可能期間が3年に限られますが、派遣労働者を代えれば、永久的に特定の業務を派遣労働者で行うことが可能になります。
改正案における派遣可能期間の事実上の撤廃は、「派遣労働者の常用化」、「常用代替禁止(の原則)の廃止」をもたらします。
さらに、例外的に無期限の派遣労働者の使用が認められていた「専門26業務」の区分も撤廃されれば、現行の無期限派遣労働者もクビ切りにされる危険が生じます。
この点、改正案では、同じ仕事で3年経った派遣労働者については、派遣元に対し、「派遣先への直接雇用の依頼」、「新たな就業先の提供」、または「派遣元事業主における無期雇用」が雇用の安定措置として義務づけられます。しかし、企業が、3年で終わりと分かっている労働者に教育訓練や労働者に配慮した安全な作業工程、派遣労働者の職場での不満にこたえる努力を行うでしょうか?そのような派遣労働者が専門的な知識、技術を身に着け、労働環境を改良していく機会、新たな職場を得難いことは容易に想定できます。また、既に専門的知識をもっている「専門26業務」の労働者にこのような措置は意味がありません。
「低賃金で解雇しやすい派遣労働者」を自由に活用できれば企業にとっては、「日本は世界で一番ビジネスがしやすい国」になるかもしれません。しかし、派遣労働が固定化されれば、結果として、労働条件がさらに劣化していく「雇用のデフレスパイラル」が起こるでしょう。これでは、政府が謳う「賃上げによる経済の好循環」など起こりようがないでしょう。
憲法違反の戦争法案(安全保障一括法案)
弁護士 森 孝博
安倍政権は、本年5月15日に安全保障一括法案を国会に提出し、2015年通常国会で成立させようとしています。この法案は、日本が攻撃された場合だけでなく、アメリカなどの他の国が攻撃を受けた場合でも、日本の自衛隊が反撃できるとします(「存立危機事態」における集団的自衛権の行使)。また、海外で戦争や武力衝突が起こった場合、アメリカ軍などのために、日本の自衛隊が世界中のあらゆる地域に出動して、弾薬の補給や空爆に向けて発進準備中の戦闘機への給油・整備などの活動を行います(「重要影響事態」、「国際平和共同対処事態」)。さらに、国連の統括下にない海外での治安維持といった活動にも自衛隊を出動させるとします(「国際連携平和活動」)。
集団的自衛権の本質は「他衛」です。しかも、他国から何ら攻撃されていない大国が「同盟国を守る」との名目で侵略や軍事介入をする口実に使われてきた「いわくつきの権利」です(アメリカのベトナム戦争、旧ソ連のアフガニスタン侵攻など)。
弾薬の補給などといった活動も、法案では「後方支援活動」や「協力支援活動」といった造語でごまかそうとしていますが、国際的には「兵たん活動」と呼ばれるもので、戦闘遂行と一体不可分に結びついた補給・輸送・整備といった活動です。要するにアメリカ軍などによる武力攻撃の「露払い役」を自衛隊が積極的かつ全面的に担おうとしているのです。
また、治安維持といった活動も、実際は多数の一般市民を巻き込んだ掃討作戦が行われているのが実態です。以下で紹介するのは、イラクのファルージャという町でアメリカ軍が何をしたのか、を認定した名古屋高等裁判所の判決文の抜粋です。
「平成16年4月5日、武装勢力掃討の名の下に、アメリカ軍による攻撃が開始され、同年6月以降は、間断なく空爆が行われようとなった。同11月8日からは、アメリカ軍兵士4000人以上が投入され、クラスター爆弾並びに国際的に使用が禁止されているナパーム弾、マスタードガス及び神経ガス等の化学兵器を使用して、大規模な掃討作戦が実施された。残虐兵器といわれる白リン弾が使用されたともいわれる。これによりファルージャ市民の多くは、市外へ避難することを余儀なくされ、生活の基盤となるインフラ設備・住宅は破壊され、多くの民間人が死傷し(た)」
これまで憲法9条のもと、自衛隊が海外へ出動したり、武器を使用することに様々な制約が加えられてきましたが、今回の法案は、上述したような凄惨な戦争や武力行使に自衛隊が全面的に関与する途をひらくものであり、戦争や武力行使を禁止する憲法9条に反する(違憲)の「戦争法案」です。また、日本の自衛隊から攻撃された相手側からすれば、それはまさに日本による先制攻撃であり、恨みや憎しみ、反撃や報復が日本国民に向けられることは必至です。安倍政権は、自衛隊の武力を活用して日本や国際の「平和と安全」を実現すると言いますが、アメリカの「対テロ」戦争(アフガニスタン戦争やイラク戦争)をみればわかるように、軍事的手段で生み出されるのは犠牲と憎しみの連鎖でしかありません。だからこそ、日本国憲法は軍事によらない平和や安全の実現をめざしているのです。こうした日本国憲法を蹂躙する「戦争法案」を認めるわけにはいきません。
3月7日、第4回市民講座、「成年後見制度と財産管理」を開催しました
事務局 清永 太郎
病気や高齢化により、判断能力がなくなったり、不十分となった方を狙った悪徳業者によるトラブルが急増しています。そういったトラブルを未然に防ぐひとつの方法として、「成年後見制度」があります。講座では、そもそも「成年後見制度」とは何なのか、「法定後見人」と「任意後見人」の違いは何か、実際の手続きはどうしたらいいかなど、詳しく説明しました。
成年後見制度とは、病気や高齢化などにより判断能力がなくなったり、不充分となった方のために、その方に代わって「成年後見人」が適切な財産管理をしてくれる制度です。成年後見制度には、現在、老化や病気、認知症、知的・精神障害等により判断能力が低下している人のために裁判所が後見人を選任する「法定後見人」と、今現在は判断能力があるけれど、将来、不慮の病気や事故によって自分に何かあった時のために、あらかじめ自分の財産を管理する人や管理する財産の範囲を決めておく「任意後見制度」があります。
講座では、適当な後見人の候補者がいない場合どうすればいいのか、自分の親に後見人がついた場合、親の所有する不動産の売却は出来るのかなど、詳しい事例を挙げて説明しました。
参加者からは、「親族以外の人が後見人になると心配」という質問がありました。法定後見人は裁判所が選任をしますが、当事務所の弁護士も必要な研修を受け、弁護士会から裁判所へ後見人の候補者として登録をされています。また、後見人選任の申立は本人や親族(四親等以内)も行うことが出来ますが、法定後見人や任意後見人になった人は、財産の管理状況などを裁判所や任意後見監督人に報告する必要もあるなど、その手続きは複雑です。ご自身がご高齢の方、ご高齢の親御さんがいらっしゃってご心配な方は是非、当事務所までお気軽にご相談下さい。
次回市民講座は9月12日、テーマは「遺言作成と相続税について」です。是非ご参加ください。
【教えて おばあちゃん】「あかね一家、最大の危機!」
事務局 永谷 美代子
◆あかね:
友だちの太郎君のお兄ちゃん、自衛隊に行くのをやめたんだって。お母さんが「戦争に行かすために、あんたを産んだんじゃない!」って、すごい剣幕で怒ったんだって。
◆おばあちゃん:
子どもを戦争に取られるのは、私の母親の世代が 最後と思っていたけれど、そうも言えなくなってきたね。
◆あかね:
男の子はかわいそう、私は女に生まれて良かったよ。
◆おばあちゃん:
あら、あかねだってアメリカの起こす戦争にまきこまれるかもしれないんだよ。安倍さんは「自衛隊は『後方支援』だけだから大丈夫だ」なんて言ってるけど、攻撃された国の人にしてみたらアメリカもアメリカに武器や弾薬を届ける日本も同じ敵だもの。日本がテロの標的になるかもしれないよ。
あかねのお父さんだって、会社が軍事に関わる仕事に手を出して、うっかり「軍事機密」を漏らしたら秘密保護法違反で警察に捕まる、お母さんは従軍看護師で戦地に派遣、お兄ちゃんは徴兵で軍隊へなんてことになるかもしれない。
◆あかね:
たいへん、我が家最大の危機だわ。
◆おばあちゃん:
日本の軍事費は今でも過去最高の5兆円超になっているけれど、これからどんどん増えるだろうね。軍事最優先で、それ以外の予算は削られ、暮らしはますます厳しくなる。
◆あかね:
どうしたらいいの、おばあちゃん。
◆おばあちゃん:
こんな戦争法案は絶対に阻止しないと!そのためには、あかねの声をもっともっと広げなさい。署名を集めたり、新聞へ投書したり、国会議員にお手紙書いたりもいいね、お友だちと話し合って、自分たちでできることを考えてみなさい、ね。
◆あかね:
おばあちゃん、どこ行くの?
◆おばあちゃん:
近所のお秋さんたちと国会へ議員要請に行ってくるよ。
【Q & A】「労働審判」のメリット・デメリット
Answer/ 弁護士 髙橋 右京
先日、長年勤めていた会社を、全く身に覚えのない理由で突然解雇されました。全く納得がいかないので、会社の責任を追及したいのですが、かといって、長い時間をかけて裁判をやるのも億劫です。「労働審判」という制度があると聞いたことがあるのですが、どんな制度ですか。普通の裁判と比べて、何かデメリットはあるのでしょうか。
労働審判とは、2004年から始まった比較的新しい制度で、個別の労働関係紛争(解雇事件、残業代請求、セクハラ・パワハラの損害賠償請求など)のみが対象とされる制度です。
一番の特徴は、期日が最長3回までと制限されている点です。この3回の期日の中で、裁判所の主導で話し合いによる解決(調停)を目指して審理が行われます。話し合いが付かないと裁判所が「審判」を下し、当事者のどちらかが異議を申し立てれば民事訴訟に移行しますが、8割方は話し合いで解決すると言われています。しかも、実際は1~2期日で終わることが多いので、早ければ申立ててから1~2か月で事件は終了します。この短期解決が労働審判の最大のメリットです。
しかし、実質的な審理はほとんど第1回期日でしか行われませんので、民事訴訟のように、複雑な事案をじっくり審理することは困難です。また、基本的には話し合いによる解決(解雇事件の場合でしたら、いわゆる「金銭解決」)を目指す制度ですから、本気で復職を考えるのでしたら、通常の民事訴訟の方が適切かもしれません。
このように、労働審判には、メリットもデメリットもあり、民事訴訟か労働審判かの選択には、その事案やご本人のご意向、証拠の状況などを踏まえた、経験豊富な弁護士によるアドバイスが不可欠です。お悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。
ニューヨーク滞在記
弁護士 森 孝博
もしかしたらお覚えの方がいるかもしれませんが、2010年の事務所ニュース夏号(2010年8月1日・66号)で、5年ごとに国連本部で開催されるNPT(核不拡散条約)の再検討会議の要請・傍聴のため、ニューヨークへ行ってきたことを報告させていただきました。時の流れは早いもので、その時から5年が経ちまして、2015年NPT再検討会議のため、またニューヨークに行ってきました(4月25日~5月1日)。
今回は会議等の合間に、連日1万5000歩以上、ニューヨーク市内を歩き回ってきました。前回訪問したときも感じたのですが、渋谷のヒカリエですら小さく思えるほどニューヨーク市内の建物は巨大でびっくりします。メトロポリタン美術館や、映画「ナイトミュージアム」の舞台となったアメリカ自然史博物館では、内部が広大で、あやうく迷子になりそうでした。5年前はニューヨークが誇る2大高層ビルの一つ、エンパイア・ステートビルに上ったのですが、今回はもう一つのロックフェラー・センターに上ってみました。夕焼けに染まるニューヨークの街並みが一望できて、とても綺麗でした。
意外だったのは、渋谷は葉桜の時期になっていたのですが、ニューヨークは至るところで桜が満開だったことです。ニューヨーカーを真似て、スターバックスでコーヒーを飲みながらノートパソコンで調べてみたところ、ニューヨークの北緯は約41度で、日本の青森県と同じぐらいだそうです。
あと印象的だったのが、9・11の現場となったワールドトレードセンターの跡地が整備され、メモリアルパークとなっていたことです。世界のどこであっても、悲劇を忘れず、繰り返してはいけないという想いは共通なのだと思います。
最後に、2015年NPT会議は、最終文書を採択できず、大変残念な結果に終わりました。被爆国である日本が消極的な姿勢に終始するのも情けない限りです。一方、核兵器の非人道性に国際的な注目が集まり、原爆被害を繰り返してはいけないという被爆者の想いに賛同する声が広がっています。私も微力ながら引き続き核廃絶の運動にかかわっていきたいと思います。