賃貸マンションのハウスクリーニングと敷金
- 借りていたマンションを大家に返す際に、大家から、部屋のハウスクリーニング代を敷金から差し引くと言われました。このように敷金からハウスクリーニング代を天引きすることは許されるのでしょうか?
- 敷金は、通常、借主の家賃の未払いが生じた場合など、借主に債務不履行があった場合の担保として、借主が入居する際に支払うお金です。敷金は、賃貸借が終了してマンションから退去した後、大家から借主に返還されます。敷金については、特に現行の民法には規定はありませんが、不動産賃貸借のいわば慣習となっています。
一方で、借主は、賃貸借が終了してマンションから退去するとき、マンションの部屋を原状に回復して返す必要があります(民法616条・598条)。これを原状回復義務といいます。
それでは、設問のように、大家が借主の原状回復義務の一環として、部屋のハウスクリーニング代を敷金から差し引くことは許されるのでしょうか?
この点については最高裁の判例があり、借主は、その部屋の通常の使用に伴う損耗や汚れなどについては、賃料に含まれており、その点については原状回復義務は負わないとされています(最高裁平成17年12月16日判決)。
したがって、そのハウスクリーニングが、借主の通常の使用にともなう汚れなどを清掃する性質のものであれば、大家がその代金を敷金から差し引くことは許されないことになります。他方で、例えば借主が長年その部屋でタバコを吸っていたために、部屋の壁紙がヤニで変色し、また臭いが取れないために大家が壁紙を貼り替えざるを得なくなったような場合には、現在では借主の通常の部屋の使用による汚れを越えるものと判断される可能性があります。その場合には、壁紙の張り替えは借主の原状回復義務の範囲に含まれることになり、大家は敷金からその費用を差し引いて返すことができるということになります。
なお、現行の民法は大幅に改正され、2020年4月1日からこの新しい民法が施行される予定になっています。この改正法では、敷金についても条文で明示されることとなりました(改正法の622条の2第1項)。また、上記の原状回復義務の範囲についても、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化については、借主は原状回復義務を負わないと明確に規定され、上記の最高裁判例の内容が明文化されることになりました(改正法の621条)。
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